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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)2731号 判決 1970年5月30日

理由

一、原告が、訴外川井信一から昭和二五年七月二二日本件宅地を代金三万三、四八〇円で買受け、所有権を取得したこと(登記はしていない)、本件宅地について、原告主張のとおり訴外杉本初枝、被告金城静子、同高野正義のため夫々所有権移転登記のなされていることは原、被告ら間において争いがない。

二、被告らは原告は昭和二八年六月頃訴外杉本初枝から金三万円を借りたが、その返済が出来ず、本件宅地を代物弁済として杉本に譲渡し、登記は前所有者川井から原告の同意の下に中間省略の登記により杉本に移転登記し、被告らは順次買い受けたものであると主張するのでこの点を判断する。

(1)  代物弁済について

《証拠》を総合すると、原告は、昭和二八年頃杉本初枝に対し、本件宅地の権利証を担保として金一〇万円程度の金策を依頼し、訴外川井名義の権利証および原告の実印を預けた。杉本は右金策を被告金城に依頼したところ、同被告は本件宅地の登記名義を杉本名義にしたなら金三万円を貸そうと言つたので、杉本は同年六月中頃訴外川井方をたずね、原告には無断で、預つていた前示権利証および原告の実印を示して、原告の依頼により登記手続を求めにきた旨告げ、その際原告が承諾しているから、直接川井から杉本へ所有権移転登記してくれるよう頼み、川井をして権利証と実印を持参している杉本の言は信用してよいと考えさせ、前示のとおり杉本への所有権移転登記手続を了した事実が認められる。

右事実によれば、訴外杉本初枝名義の所有権移転登記はなんら実体上の権利関係の移転を伴わない無効のものというべきである。したがつて、登記があつても訴外杉本初枝が所有権を取得したとはいえない。

本件宅地の所有権が杉本初枝にない以上、被告金城と杉本間に被告ら主張の事実あるも、被告金城はその所有権を取得するいわれなく、被告金城から買受けたという被告高野も、たとえこの事実あるも本件宅地について所有権を取得することはない。したがつてその登記はいずれも無効の登記である。

三、右の通りとすると原告が、訴外川井から本件宅地を買受けて所有権を取得したが、いまだその登記をしていないことは当事者間に争いのないところであるから、原告は訴外川井に対して所有権移転登記請求権を有すること明らかであり、訴外川井はこの義務を履行するため訴外杉本のためされた所有権移転登記、同訴外人から被告金城へ、被告金城から被告高野への各所有権移転登記の抹消登記手続を求めるべきである。

そうとすれば、原告が訴外川井に対して有する所有権移転登記請求権を保全するため、訴外川井が被告らに対して有する前示所有権移転登記抹消登記請求権を代位行使して、それぞれ各登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は理由がある。

四、被告高野は、訴外川井のなした訴外杉本に対する所有権移転登記は適法有効なものであるから、原告は既に代位の基礎となる訴外川井に対して有する移転登記請求権を失つており、又、訴外川井も右の通り自己の義務を履行してしまつた以上被告らに対し抹消登記手続を求める利益も必要もないと主張するので判断する。

不動産の登記は権利関係を公示するものであり、それは権利関係の移動をそのまま反映することが望ましい。少くとも現在の権利関係に一致することが要求されている。

本件について考えると、訴外杉本、被告金城、被告高野の各所有権取得登記は、いずれも実体上の権利に合致していない。従つてこれは抹消さるべきものである。しかし一方現実の権利関係に登記が一致すれば足るという要請からすれば、原告は高野に対して原告に所有権移転登記を求めれば足る事である。したがつて、原告としては登記を抹消せずして自己に移転登記手続を求めるか、全部を抹消して真実の権利関係に一致する訴外川井から原告への所有権移転登記手続を求めるかはその自由であると解すべきである。成程訴外川井としては原告の実印および自己名義の権利証をみて訴外杉本の言を信じたのは責むべき点がないかも知れないが、事実の権利関係に一致しない登記が抹消されうるものである以上、抹消されれば、自己の既になした義務履行も一応消滅に帰し、再び、自己が登記名義人になる以上、原告に対する所有権移転登記義務がないと主張することは許されないと考える。

しからば、被告高野の主張は採用できない。

よつて、原告の被告らに対する本訴請求は理由があるからこれを正当として認容

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